トリコロールな猫

猫とつくばと茨城をこよなく愛するnekotricolorのブログです

つくば市が公開した「総合運動公園事業検証委員会報告書」を読んでみた

つくば市のサイトで「総合運動公園事業検証委員会報告書」が公開されました。五十嵐市長が公約(「運動公園問題検証チームによる徹底解明と今後のルール作り」)にあげていたやつですね。非常に面白かったです。

www.city.tsukuba.ibaraki.jp

気になったところを引用しつつ感想を書いていきたいと思います。長いです。

平成 4 年(以下、「平成」を省略)1 月の「つくば市総合計画・基本計画」中で地域のスポーツ・レクリエーション振興のための総合運動公園の建設・整備(以下、単に「整備」という)が挙げられ、12 年 3 月には「つくば市総合運動公園基本構想」(以下、「12年基本構想」という)が取りまとめられたところ、同構想については当時の土地利用規制等により用地の選定に至らず、事業中止となった *1

総合運動公園事業の萌芽はずいぶん昔だったようです。

市長は、「総合運動公園の適地と認められる高エネ研南側地区(以下、「本件土地」)の所有者の UR から今月 24 日に『同土地を本年度中に処分したい。他の事業者からも引き合いがある』との話があり *2

この土地が元市長の病院の近くだったことも、叩かれた大きな原因だったと思う。ちなみに「他の事業者」とはメガソーラー事業者だそうで。

具体的な総合運動公園の規模・性質については、市側の認識と議会あるいは市民との認識は必ずしも一致していなかった。すなわち、各種要望に照らせば、あくまでも市民レベルでのスポーツ施設の整備の必要性が唱えられていたと認められるところ、本件整備事業は、それをはるかに上回る規模のものであった *3

そう、ここが最大の疑問点。なぜ市民公園レベルでなく45.6haもある巨大施設にしたかったのか。

22 年頃の段階で、本件土地が UR による売却の対象となり、市の取得が可能になったことが、用地を確保できずに 12 年基本構想が実現されなかったことを知る市原市長にとって本件整備事業の推進を決意させる一因になり、その他市側関係者にとっても、同事業の実現に意欲を持って取り組む要因になった *4

(仮称)つくば市総合運動公園基本構想」を見ると17の候補地から高エネ研近くの土地を選定しました、とあるけどもう彼の地ありきという感じですね。他の候補地は12 年基本構想の時点で却下だったということでしょうか。

総合運動公園基金条例案並びに関連補正予算についての審議を経て、同各案についての採決が行われたが、共産党議員 3 名から、他の行政課題も多く、住民負担も増えざる を得ず、7 億円の基金積上げは疑問であり、市民生活に対する要求事項を優先すべきなどの理由で反対意見が出されたが、その他 24 名の議員の賛成により可決された *5

市議会もこの時点(25年9月)では抵抗は少なかった、と。

26 年 2 月の全員協議会以前には検討状況を議会・市民に一切知らせず、同協議会において初めて概算事業費が 366 億円にも上る本件基本構想を公表したことは、唐突であり、また、そのことが、その後、議会・市民の理解を得る上でのマイナス要因の一つになった *6

確かに唐突。

(6) 本件土地取得に係る市と UR との話し合いは 25 年 9 月 24 日から始まったのでは なく、それ以前市とURとの間で「水面下」で行われていたのではないか *7

に対しては

市側関係者が 25 年 9 月 24 日以前 に本件土地取得について市・UR 間交渉を行っていた事実は認められず、同交渉の初回は同 9 月 24 日であったものと認められる。 *8

だそうで怪しいところはなさそう、と。

市による総合運動公園整備事業のことを察知した UR 側から、25 年 9 月 24 日以降、本件土地をメガソーラーの事業会社等へ売却する可能性を前提に、市に売却する条件として、市としての早期の意向表明並びに 25 年度末までの売買契約締結を迫られ、所有者である UR との交渉が始まってから半年後という取得期限が設定されることとなった *9

市はURから「早く買ってくれないとよそに売っちゃうよー」と言われてたわけですね。

16 年に市と UR との間で、中根・金田台地区内の UR 所有の「歴史緑空間」と呼ぶ国指定遺跡を含む緑地帯(約 52ha)について、市が UR から 33 年までに場所ごとに順次買い取る旨の覚書が締結された *10

この案件を譲歩する代わりに本件土地を高値で買ったのでは?という話が出てくるわけですが、担当部署が違うということでこの疑問は否定されています。ついでなので中根・金田台地区案件とは何かを調べてみました。

URが進めているTX開通に伴う再開発のようですが、国史跡に指定されている「金田官衙遺跡」というものがあることから、開発が遅れているようです。

www.ur-net.go.jp

ていうかこれ、柴崎のまるもの近くの最近急に開発が始まったとこですよね。ここをつくば駅近隣ていっちゃうのはどうよw あんな道がいつでも混んでるところじゃバス通すのも大変そうだし・・。

www.ur-net.go.jp

元々の居住者とは昔からもめていたようですね。ちょっと逸れますがこの誓願書はなかなか興味深い。

請願23第4号 中根・金田台特定土地区画整理事業に関する請願書(平成23年2月18日受理)

以下抜粋。

本件事業は、金田台に居住する我々が要望したものではなく、合意もしていない。UR都市機構(以下、URと略記する)の実施した「換地のアンケート」に回答した建付地の地権者もいるが、これはいわばURの「脅し」に屈したものであり、当協議会に所属する地権者は、基本的に換地には反対である。

この誓願書だけ見て判断するのは危険ですが、反対した人もたくさんいるでしょうねえ。

歴史的緑空間については、つくば市・茨城県・URとの間で交わされた覚書の存在も明らかになっており、URの先買い地を集約換地したうえでつくば市が買い取るとされているが、区画整理事業の区域内にこのような取引を持ち込む事自体、合理性を全く欠いた暴挙であり、税金の無駄遣い以外の何物でもない。このこと一つとっても、市民のための開発ではなく、URのための開発と言わざるを得ないものである。
URのために地域住民が犠牲になる開発は到底受け入れられない。

なんか全ての原因はURな気がしてきた。

中根・金田台地区は最寄りのつくば駅から4㎞以上離れており、他地区以上に販売に苦戦するのは火を見るより明らかである。

ごもっとも。


閑話休題。といってもUR絡みの話が続くわけですが、土地の鑑定評価のところには問題があったようです。

最初に UR 側が本件土地の件で来訪した 25 年 9 月 24 日の面談の際に「固定資産税評価額をベースにすると平米約 2 万円になる」と言い、市 側が値引きを求めて始まり、同年 10 月 10 日の面談の際には、UR 側から 1 万 6000 円と の価格を示し、同年 10 月 18 日の面談の際にも同様の考えを示した模様である。*11

URの希望価格は20,000円、値下げして16,000円というのが前提。

で、2名の鑑定士に評価額を依頼したところ、一人(B鑑定士)は16,800円、一人(A鑑定士)は9,130円と結果に大きな隔たりがあり、この原因が事前に渡されていた「前提条件」を汲んだかどうかにあるらしいということです。(実際の買取価格は14,500円)

「前提条件」には、「1 土地概要」、「2 価格時点」、「3 価格の種類」、「4 対象不動産の状況」、「5 土地整備に係る費用(概算額)」との各項目が立てられ、末尾に本件土地に 係る「道路計画平面図」が添付されている。内容のうち特に問題であるのは、「3 価格の種類」「正常価格」の本文の「現況山林であるが、伐採抜根等の下記 5 の工事等を行い、別添図の通りの宅地となった状態であることとして正常価格の鑑定評価を行う」との記載である。*12

つまりは既に高エネ研の土地と同じような状態になった土地の鑑定評価額を出すこと」を市は求めている、と理解したとのことである。*13

まさにいま流行りの忖度。ていうかメガソーラー事業者に売るつもりだった土地を「宅地となった状態であることとして」価格鑑定させるんだ?
そして、

A 鑑定士・B 鑑定士とも、「前提条件」を受け取った時、通常、市からの鑑定評価依頼の際に渡される「仕様書」とは異なる「前提条件」という表題の書面であることや、記載内容の専門性や文言の使い方、さらには市職員による依頼時の説明等からしても、不動産鑑定評価関連の知識・経験に乏しい市職員ではなく、UR 関係者が作成した文章だろうと 推測したとのことである。そして、UR 側からの回答及び市側関係者の供述を合わせれば、少なくとも問題の「前提条件」の「3」については、UR 側の教示によるものであると考えられる。*14

で、

B 鑑定士は、(略)結果としては、「前提条件」の「3」の趣旨に沿った鑑定手法等によって、評価額を決定しているように思われる。*15

A 鑑定士は、「(略)『前提条件』のことは気にせずに、鑑定士としての鑑定評価を行った」旨述べ、現に A 鑑定書 には「前提条件」との関連は全く認められない。*16

そして

二社に委託した不動産鑑定結果の一方しか議会に示さないといった判断 *17

につながるわけですね。つまり鑑定評価額が高いB 鑑定士の方だけ出したと。

次はこれを根拠に「URとの契約書に「総合運動公園用地」と明記され、交渉過程も不透明な部分が多い66億円の予定地の返還交渉」の実現ですかね五十嵐市長。

「(11) 25 年9月の市議会で総合運動公園基金条例案並びに関連補正予算が圧倒的多数で可決されたのに、26 年 3 月議会では、本件土地取得議案等がわずか 1 票差での可決という僅差になったのはなぜか(P.12)」についてはこれも闇っぽい理由が。

市原氏が市の事業における入札制度改革を断行した結果、自民党議員との関係に変化が生じたことを挙げている。すなわち、自民党議員との関係が悪化し、同議員らが本件整備事業に対して賛成から反対に回ったという趣旨である。この点は、本調査において真偽を確認し得るものではないが、他の市側担当者も、同様の見方をしている。*18

こういう根回し大事なんでしょうなあ。

過去に例を見ない程の大規模な事業になることは想定されていたにも関わらず、市役所においては、財源についての細かい詰めが行われていなかった。(略)背景には、本件整備事業のような場合、当時の状況・情勢からすると、100%補助事業であるとして、普通であれば、総事業費の内の80%程度が国の負担で、自治体の実際負担分は 20%程度で済むはず、という共通認識のようなものが存在していたよう*19

ある程度確度の高い皮算用ができていたので説明を後回しにしてしまった、ということですね。これについては後半の分析でも触れられています↓

つくば市が平成 14 年に町村合併でできた自治体であることから、29 年までは合併特例債が使えること、オリンピックの誘致に関連する補助金も見込めることなど、早期に整備事業を行うことで、市としての財政負担が少なくなる見通しを持っていた*20

余談ですがパブコメに対する市の姿勢ウケる。

市側は、「パブコメでは、反対意見が出がちで、賛成者は回答しないのが普通である」、「パブコメはあくまで市の意思決定を行う上での参考であって賛否を問うものではない」などと考え、本件基本構想案に対する民意の一つの表れと見る姿勢に欠けていた。*21

で、結論。

本件事業がこのような結果を招いたことに関して、市原前市長が何らかの個人的動機によって事業を行おうとした疑いや、本件土地を売却したUR側と市との間に何らかの不透明な関係、癒着関係等の疑いも指摘されたが、本件検証における調査結果からは、個人的な動機が介在した事実や不正の事実等は認められなかった。*22

えっそうなの?「(6) 大規模な土地取得において取得価格の適正さを担保するための仕組みが不十分であったこと(P.18)」で

二つの土地鑑定評価が、それぞれ異なった手法で行われ、鑑定評価額が大きく異なり、しかも、鑑定経緯に取引の相手方である売り主のURが関与したと考えられる*23

市側が事業に適した土地諸条件から本件土地の取得が不可欠と考えいたところに、UR側が期限を設定して高値での売却の意向を示してきたことで、 UR側の意向にある程度合致する価格提示をせざるを得ないという事情があった*24

って書いてるのに?忖度はあったけど不正はなかった?

市長個人の思惑云々はなかったとしても、この報告書をもって問題なかったといわれても納得いかないなあ。法的には問題ないのかもしれないけどURは好き放題やりすぎでしょ。

森友学園は鑑定価格9億5600万で8億円値引きしたっていうのがあれだけの大騒ぎになるんですから、A鑑定士の評価価格なら41.6億円で買える土地を66億円で買っちゃった話はもう少しニュースになってもよかったんじゃないでしょうか。

といろいろ言いたいことはありますが周辺の情報をよく知らないのでこのくらいにして、最後に報告書からわかった経緯をまとめて終わります。

総合運動公園を作ろうという構想は昔からあったが適地がなく頓挫した

25年9月ごろ、URが適地を売るよ、でも25年度末までに買わないとよそに売っちゃうよと打診

25年10月、URから売却価格16,000円と提示される

市長、市議会がその気になる

(この間に市長が入札制度改革を断行して自民党議員の反発を買った?)

26年1月、疑惑の土地鑑定

26年2月、366億円規模の総合運動公園構想を発表(このときにB鑑定士の評価価格だけを提示した?)

26年3月、本件土地取得議案が1票差で可決

26年3月末、本件土地を66億円で買収

26年12月〜27年1月、パブコメ募集

27年2月、基本計画決定

27年2月〜3月、市民団体が署名活動

27年4月、住民投票条例制定請求

27年5月、条例可決

27年8月、住民投票、反対約81%

27年9月、白紙撤回


これを受けて現市長がどう動くのか見ものですね。がんばれ五十嵐市長。

*1:P.1「(1) 総合運動公園事業の沿革」

*2:P.2「(2) 企画・立案・一部関連予算等成立までの経緯」より

*3:P.5「(2) 市原前市長及び市執行部は就任以降運動公園整備に対してどのような姿勢であったのか」

*4:P.6「(2) 市原前市長及び市執行部は就任以降運動公園整備に対してどのような姿勢であったのか」

*5:P.6「(3) 市議会は、運動公園整備に対してどのような姿勢であったのか」

*6:P.7「(4) 基礎調査報告書作成等の運動公園整備事業の調査検討状況について、市当局は議会に適切に説明をしていたか」

*7:P.7

*8:P.8「(6) 本件土地取得に係る市と UR との話し合いは 25 年 9 月 24 日から始まったのでは なく、それ以前市とURとの間で「水面下」で行われていたのではないか」

*9:P.8「(7) 本件土地に係る市・UR 間交渉の進展が速かったのはなぜか」

*10:P.8 「(8) 他の案件における UR 側の譲歩の見返りとして、本件土地の高値での売買契約に至ったのではないか」

*11:P.9「(9) UR との価格交渉の状況及びそれに対応しての市側の価格決定経緯に問題はなかったのか」

*12:P.10「ウ 「前提条件」の記載内容の意味について」

*13:P.10「ウ 「前提条件」の記載内容の意味について」

*14:P.11「エ 「前提条件」の作成経緯について」

*15:P.11「オ 「前提条件」が鑑定結果に及ぼした影響について」

*16:P.11「オ 「前提条件」が鑑定結果に及ぼした影響について」

*17:P.8「(7) 本件土地に係る市・UR 間交渉の進展が速かったのはなぜか」

*18:P.12「(11) 25 年9月の市議会で総合運動公園基金条例案並びに関連補正予算が圧倒的多数で可決されたのに、26 年 3 月議会では、本件土地取得議案等がわずか 1 票差での可決という僅差になったのはなぜか」

*19:P.12「(12) 市の年間予算の約半分にも上る本件整備事業の事業費総額 366 億円は、市の財政上の負担が重過ぎるのではないか」

*20:P.14「第3 調査結果に基づく本件事業が白紙撤回に至った原因の分析 1 概要」

*21:P.13「(13) 本件パブコメは民意を反映したものと見るべきか」

*22:P.19「第4 本件検証結果に基づく今後の市政運営への提言」

*23:P.18「(6) 大規模な土地取得において取得価格の適正さを担保するための仕組みが不十分であったこと」

*24:P.18「(6) 大規模な土地取得において取得価格の適正さを担保するための仕組みが不十分であったこと」